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ザァァァァァァ―――…

「ほんとうに…?」

外に雨が降っているという事実を認めたくなくて靴箱の隣のいっぱいになっている傘たてから目をそらしたけれど今度は雨雲でつつまれた空が視界に入ってきて、その灰色が印象に残った。その間も何人かの生徒が傘を片手に出てゆき、たまに先生が「さようなら」という声が聞こえる。ぼくはバサリという傘を開く音も聞きたくなくて、(それでも雨の中を傘もささずに帰るような勇気はなかった)教室に戻ることにした。友達と何度かすれ違い、他の人と逆方向に向かうぼくの顔を見て声をかけてくれた。「忘れ物か?」なんて言われてもぼくは、家に忘れて来たのだからどうしようもないじゃないか、とも言えない気が弱い人間なんだ。

「……」

教室にはもう、先生もいなかった。こういうときに北は薄情だよな、あいつはぼくを置いて先に帰っちまったんだ、と愚痴を漏らしながら自分の机まで真っ直ぐに行って、乱暴に鞄を置いて椅子に座る。しかし静かな教室の中でぼくはやることがなく、静かに雨音と時計の秒針の音だけが響くという不気味な教室で、机に顔を伏せて目を閉じたけれど眠れなかった。

カチ、カチ、カチ、

「……」

落ち着きがないとよく言われるぼくは雨が止むまでそのまま待つことも出来ず、もう時計の動きを見ているしかなくなった。しばらく見ているともう頭の中で「体内時計」というものが完璧に出来上がって、それにももう飽きてしまった。北ってほんとうに帰っちゃったのかなと、無いに等しい希望をもう一度膨らませてみる。

「もう、鍵、閉めますよ」
「えぇ?! ……ああ、……はい…」

そのうちぼくは学校から追い出されてしまい、靴箱で立つこと以外に道が無くなってしまった。こういうときに限ってぼくは、いつも鬱陶しいと思っていたやつとも仲良くしておけばよかったと考える。(もともと、そんな気は全くないのだけれど)ああ、栄太とか微意男とかと仲良くして傘とか貸してもらえばよかった!あいつら仲いいから、一つだけあれば帰れるだろうし。

「……傘」

そのときぼくは、傘立てにたった一つだけ、黒い傘が置いてあることに気が付いた。こんな日に忘れるはずはないから、誰かがまだいるということだ。色から判断するとその生徒は、男子。ぼくはその傘を手にとって、名前を見ようとした。(決して、盗もうとしたわけではない)勝手に見てもいいのかなと思いながらもボタンを押して広げて、どこかに書いていないかと調べる。

「何、やってんの」
「う、わ ?」

ぼくが無駄に丁寧な文字で書いてある名前を発見するのと後ろで声がしたのは、ほぼ同時だった。後ろで西が怪訝そうな顔でこちらを見てから、(鞄がすごい重そうだ、何が入っているんだろう)靴箱から無駄にきれいで真っ白な靴を出してはいている。  そうだ、この傘は西の傘なんだ。返さなきゃ、と思ったらもう西はぼくの隣を通り過ぎて、傘もささずに歩いていった。それは駄目だろうと考えて走って追いかけて、西の肩を叩いて振り向かせる。面倒くさそうに振り返って、何よと言う。(鬱陶しいと、目で訴えている)

「傘! ぼく、今」
「あんたのでしょ」
「何で!」
「わたしがそう思ったからそうなのよ」

よくわからない理論だったけれどぼくは、それに文句が言えなかった。(これは遠まわしに、傘を貸してくれると言っているのかもしれないし。もしもそうなら、カッコワルイだろう)西が鞄を片手に持って中をあさり、中から折りたたみ傘を出して歩いてゆく。僕の右手にある傘には「西」という文字がはっきりと書いてあったけれど、気遣いに甘えようと広がったままのそれを持ち直して家に帰った。

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