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みなみさんの、きもち。

あの日から、南さんと一緒にいる時間が長くなった。私が、彼女を受け入れ始めているのだ。でも、完全に受け入れることは、一生できないだろう。彼女の、信頼できない部分もあるから。知らないこと、ばかりだから。

「西さん西さん」
「何?」
「西さん、あたしのこと嫌いだよね」

私は、そのまま動けなくなってしまった。聞き流すことはできないし、冗談にもできない。受け止めるしかないけれど、そうしたら、応えなきゃいけない。今までずっと逃げていたのに、本人から聞かれてしまった。どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、

「……え…っと…」
「いいよ」
「えっ?」

私は彼女を見た。いつも私の事を見ながら話しているのに、今日は、どこか遠くを見ている。傷付けてしまったのだろう。私は何故か、彼女が傷付くことはしたくないと思っている。(元気に笑っているのが彼女の本来の姿だと思っているのかもしれない、勝手な思い込みなのに。)(そんなに深くまで彼女のことを理解しているわけでもないのに。)彼女が私を見た。

「そんなに、無理しなくていいもん」
「なんで?」

優しく笑ってから、彼女は私を、すごい力で抱き締めた。反応に困っているうちに解放され、安心したみたいな寂しいみたいな、変な感情が生まれた。この子と一緒にいると、精神が疲れていく。気を使いすぎている。なのに何故、私はこの子と一緒にいるのだろう。よく分からない。彼女が、俯きながら、言う。

「ほんとうの、西さんがいい」

泣きそうな声だった。そして、俯いたままの状態で歩いていき、自分の席に座ってしまう。私はしばらくそのまま立っていたけれど、そうしていても何かが変わるわけじゃないから、座ることにした。次の授業の用意をしながら、さっき言われたことの意味を考える。ほんとうのわたしって、なに?ほんとうって、どういうこと?

ほんとうの、わたし。

南さんと一緒に帰りながら、私は考えていた。何で私と一緒にいるのか。何で私と友達になりたかったのか。何で私に構うのか。何も分からなくて…混乱しているのだろうか。どうしたらいいのか分からない。どうされたらいいのか分からない。

「西さん」
「なに?」

彼女は、私の顔を見ていなかった。まただ。いつも見ていたのに、何故か今日は、あまり見てこない。見られたいわけじゃないけれど、「そうであることが当然」になってしまった行為がないと、したくなくなったのかと思う。嫌いになられたのだろう。別に、嫌われても、前と同じの生活になるだけだ。学校に来て、勉強して、帰るだけの。一緒に昼ごはんを食べる相手なんかいない、たった一人の時間に戻るだけ。それなのに、なんだろう。この気持ちは、どういう、

「考え事してるね?」
「……うん」
「そっか、考え事……」

彼女は、また俯いて、静かになった。沈黙があったって、普段はどうってことないのに、この子といると、どうして、こんなに苦しいのだろう。私は、勇気を出してみた。

「ねえ」
「……えっ?なに?」
「ほんとうのわたしって、なに?」

彼女は驚いていた。どういう驚きなのか、その意味は分からなかったけれど、いつも笑ってばかりの彼女が驚いているのが新鮮だった。南さんが、私の手を握る。この子は手を握るのが好きらしい。

「ほんとうの、って事だよ」
「よく分からないんだけど」
「ありのままの西さんが、いいの」
「ありのままの……」
「にせものじゃない西さんが、好きだから」

私は、何故か、赤くなった。握られている手が熱くて、恥ずかしくて、私は、解くことなんて出来ないまま、横を向いて歩いた。南さんのほうを見るのは恥ずかしいから、見ないようにした。南さんは、きっと、笑顔でこっちを見ているんだ。なんて恥ずかしい台詞を、言うんだ!

「……」
「……」

お互い、何も話さなかった。話したいことがないわけじゃなかったけれど、話せなかった。気まずい。どうにかして空気をかえようと、南さんのほうを見た。

「……え…っ?」
「あっ」

南さんは、顔が真っ赤だった。かなり慌てているようで、繋いでいる手が更に強く握られ、密着した。彼女は、早口で言った。

「えっ……あ、いや、好きって…いうか、そんな、あの…えっと…?」

なんだか、その姿がとても面白くて、私は笑ってしまった。南さんも、私を見て笑った。かわいいんだなあ、と思った。

「えっと…嘘なのは、嫌だから…嘘の西さんは、嫌だから……」
「嘘なんかつかないよ」
「……うん」

南さんは、私の顔を見ながら、腕を組んできた。私はそれを、振り払わない。振り払う気ほど失礼な人間じゃないし、むしろ、そのままのほうが心地いい。

「そうしてくれると…すごく、嬉しい」

かわいらしく笑う彼女を見ながら、私は、本気で、仲良くなりたいと思った。

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